摂食障害とは、食行動の重篤な障害を呈する精神障害の一種です。
厚生労働省の難治性疾患にも指定されていることからわかる通り、非常に治療の難しい病気です。
近年では骨と皮だけのような状態の摂食障害患者様は減少しているとも言われていますが、それでも生命の危機を伴う危険な病気です。
摂食障害には①拒食症と②過食症があると言われていますが、どちらかだけが出現することはまれです。
たくさんの治療法や原因などが提唱されていますが、実際に根治するのは非常に困難です、摂食障害の本質をきちんと理解している専門家も少ないのが現実です。
異常なまでに痩せにこだわったり、常識では考えられないほどの食物を食べたり、食行動の以上に目が向きがちですが、心の中も強い虚無感を抱えている方が多く、本当に苦しい病気です。
今日は摂食障害の方の心理的特徴、治療法、治療のタイミングなどについて書いていきます。
摂食障害とはどのような病気なのか
摂食障害と聞いて「過剰なまでにダイエットをする」「たくさん食べて嘔吐をする」という病気だとみなさんは想像するかもしれません。
表面的にはその通りです。
その方によってパターンは異なりますが、
・食事や水分を極端に制限して痩せを保とうとする
・過剰に運動をして痩せを保とうとする
・以上なまでに食事をつめこみ、嘔吐する
などの行動は多くの摂食障害者に見られます。
身長にもよりますが体重が40キロを切るころには、多くの場合は強制力のある入院形態で入院をし、生命維持の処置が施されます。
女性の場合は当然月経も止まりますし、若くても髪の毛が抜けたり、歯がぼろぼろになったりします。
10代~20代の若い頃に発症することが多い、と言われていますが、思春期の頃に必ず発症している、という専門家もいます。
男女比は圧倒的に女性が多い病気となっています。
摂食障害者の心理的特徴 なぜそこまでして痩せを求めるのか
摂食障害者がなぜ生命の危機になってまで痩せを求めるのか、これにはたくさんの専門家がたくさんの考えを持っています。
・少女から女性になることへの不安感から
・母子の葛藤から
・痩せを推奨する社会的圧力から
・ストレスから
などが多く言われていることです。
ここでは、あくまで私自身が摂食障害を抱える方たちの治療に携わった経験から考える、心理的特徴を書いていきます。
・自己愛的な心性からくる行動の病
一番の特徴は、摂食障害は「行動の病」だということです。
傷つくこと、辛いことが起こった時に、自傷行為をしたり家を飛び出したりして辛い気持ちを解消することを、心理学では「行動化」と呼びます。
この行動化は人格障害の患者様がよく用いる方法ですが、摂食障害の方もこの方法を用いていると思います。
と言うのも、摂食障害者は自己愛的な人がとても多く、自己愛性人格障害の心性にとても似ているのです。
自己愛性人格障害は、他者への興味関心の低さ、他者を自分の利益のために利用したり、他者に心を開かなかったりする特徴があります。
摂食障害者も同様の特徴があり、自分の体重維持に協力してくれる人に対しては肯定的な感情を向けますが、それは自分の目的を邪魔しない、援助してくれる相手だからです。
摂食障害者は、他人の心や自分の心よりも、自分の体重に強い執着心があり、苦しいことを心の中にとどめておけずに、食行動の異常、という形で表現するのです。
これは想像を絶する苦しさです。
摂食障害の方は、いつもいつも不安で虚しくて満足できていないことになるからです。
人間は一人では生きていけず、他者との暖かい心理的に深い関係性に助けられます。
しかし摂食障害者はそこに救いを見いだせないのです。
摂食障害者が救いを見いだせるのはただ一つ。
「誰よりも痩せている自分」
です。
これがなくなると自分は何も価値のない人間になる、そのような恐怖を常に持って生きているのです。
・人間の欲を自分の強い意思のみで抑えようとする
摂食障害者は自分の強い意思で、人間の三大欲求を抑えようとします。
食欲だけではないのです。
最初の頃は、食事を制限することでどんどん痩せていきます。
それは摂食障害者からするととても気分の良いことで、このころは活動的で機嫌が良いことがほとんどです。
食欲にのまれずにダイエットができている自分が快感で仕方がありません。
しかし、体重が減っていくとだんだんと食事を制限することが難しくなってきます。
それは当然です。
身体が痩せていくと、生き延びるために強い食欲がわくからです。
その強烈な食欲を意思の力だけで制限するのは、至難の業です。
これ以上食べなければ死ぬ、という状況になっても食べない、命がけで食欲を制限しているのです。
体重が極端に減ると当然性欲はわかなくなります。
身体の力がなくなっていくので、寝てばかりになりますが、時にはこの睡眠欲も極端に制限する場合もあります。
何時間睡眠、と厳密に自分でルールを決めていたりすることがあるのです。
私たちが当然のようにみんな持っている欲を、自分の意思の力でねじ伏せて、それが成功すると自分の価値を見いだせる、成功できなければひどく取り乱し混乱する、それが摂食障害の方の実態です。
実際、だんだんと食事を制限することに限界がくるようになり、強烈な食欲によって過食の時期が必ずきます。
リミッターがはずれたように食べて食べて食べまくりますが、それもそのはず、今まで極端にカロリーを制限していたのですから、身体が食事を欲していのは当たり前なのです。
この当たり前のことに、摂食障害の方は強く狼狽し嘆き悲しむのです。
ここまでのことをまとめると
・食べたものを胃の中にとどめて消化をすることができない=心の苦しみも心の中で消化することができず、嘔吐することで苦しみも吐き出している
・他者との暖かい関係よりも、痩せた自分の身体に安心感を覚え、その痩せを維持するために命をかけている
・誰よりも痩せている自分、というイメージが崩壊することを恐れている
・生命維持に必要な欲を意思の力で抑えつけようとし、それができなくなるとひどく狼狽する
題名の答え「なぜそこまでして痩せを求めるのか」の答えがこれだと私は感じています。
摂食障害者の治療のタイミング、治療法
治療は早い段階で繋がればそれが一番良いと思いますが、大事な時期は患者様が過食になった時だと思っています。
患者様が食事を制限することに限界がきて過食になった時、必ず心が揺れます。
その時に治療者に助けを求めてくることが多いと思いますので、そのタイミングは絶対に逃してはいけないと思います。
治療法はたくさん提唱されていますが、私はA-Tスプリットの体制が絶対に不可欠だと思っています。
A-Tスプリットとは、管理医と治療実践者が分離し、お互いがお互いの仕事をしながら協力・連携していく、という治療体制です。
摂食障害は正しい食事の習慣をつけたり、最初に決めた食事のルール、体重管理のルールを順守してもらう必要があります。
普通の食事を普通に食べて、普通の体重になることは治療上絶対に不可欠です。
そのような健康管理・患者様ご家族への心理教育・家族相談・多職種への指示などを多担当する管理医がいて、治療実践者(多くの場合、臨床心理士や精神科医)が患者様の心理的な治療を行う、という形です。
これが実践できるのは多くの場合、精神科での入院治療になると思います。
入院中は食事の管理であったり、精神的に不安定になった場合の支えは、多くの場合看護師が担います。
非常に大変な役割となるので、ここでも必ず連携が必要です。
ご家族の支えももちろん大切です。
ご家族が摂食障害に理解を示し、患者様の心の揺れに一緒に付き合いつつ、耐えていく、という過程は必ず通ると思います。
患者様もご家族も、治療者も本当に大変な思いをしますが、時間をかければ摂食障害の方が変化をしていく可能性はあります。
摂食障害者の完治とは?
摂食障害者が治る、というのはどのようなことを指すのでしょうか。
吐かなくなる、少し痩せてはいるけど、以前ほどではない、仕事をするようになった、性格が柔らかくなった、このような状態でしょうか?
もちろんそれも一つの指標だと思います。
しかし私は絶対に外せないポイントがあると思っています。
それは、
苦しみを苦しみとして感じることができること
です。
前述したように、摂食障害者は苦しい思いを感じたり心で消化することができません。
だからこそ食物と一緒に身体の外に出してしまうのです。
摂食障害者が一見冷たく見えるのはそのためです。
冷たいのではなく普通の人が悲しむような出来事に耐えられないから、外に出してしまっているだけなのです。
だからこそ、「ああ私今悲しい」「苦しい」と感じつつ、それを外に出さずに心で抱えることができる、普通の人がやるのと同じように適切に対処ができる、このことが大切なんです。
これができないままだと、いくら身体が健康になっても心は虚しいままです。
そしてその虚しさは一生涯続いていくのです。
おわりに
摂食障害は難病です。
しかしできるだけ早く専門機関に繋がり治療体制を作れれば、幸せを感じて生きていくこともできます。
治療先は精神科ですが、摂食障害の治療経験がある医師のもとでの治療が望ましいと思います。
摂食障害の方が適切な治療に繋がり、誰でも持っていて当然の自分の弱さも認めながら、幸せになることを心から祈っています。