旅ごころブログ〜公認心理士が書く心理学ブログ〜

公認心理士、臨床心理士をしている筆者が心理学の知識を伝えていくブログです。恋愛心理学、ストレス対処法など日常で使える心理学はもちろん、精神科の疾患についても解説します!

子どもが引きこもりになった場合親はどうやって対応すれば良いのか、具体的な支援の流れを紹介 引きこもりで苦しまないための方法

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引きこもりの問題は、何らかの事件の関係者が引きこもっていた、と報道されると強く注目される傾向にあります。

ただ、元々引きこもりの問題は家族で抱えてしまいがちで、相談に繋がりにくいため、継続して社会が注目する、ということが課題とも言えます。

 

引きこもりの問題は以下の記事に概要を書いています。

 

www.ntan.work

 

今日は身近な人が引きこもりになった時に、家族はどのような助けをすれば良いのか、について書いていきます。

 

 

引きこもり支援の一般的な流れ

精神科医や心理士、保健師など引きこもり支援に携わる専門職はたくさんいますが、特に支援の初期は家族による関わりがとても重要になります。

家族の関わりが基本となり、引きこもり支援の初期から後期までを支えるのです。

では、一般的な引きこもり治療の流れを確認していきましょう。

 

①引きこもりへの正しい理解をする

まずはこれです。

引きこもりに対する偏見は数多くあります。

・犯罪者予備軍

・怠けている

・ゲーム依存

などなど・・・

 

引きこもりを理解しようにも、当事者は引きこもっているので会うこともあまりないですし、正しい理解は難しいのだとは思います。

 

ここでは一つだけ、もっとも大切なことをお伝えします。

 

引きこもり自体は病気ではない

 

ということです。

 

厚生労働省は引きこもりの定義を「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」としています。

 

買い物などで外に出ることはあっても、「家族意外と」交流を持たないことを定義としています。

 

また、国立精神・神経センター精神保健研究所による引きこもりの概念として、「ひきこもりは単一の疾患や障害の概念ではない、という記載もあります。

 

よくある誤解として

・何十年も部屋から出てこないのが引きこもりだ

ニート=引きこもり

・引きこもりは精神障害者

というものがありますが、これはすべて間違い、ということになります。

 

何十年も部屋から出てこない引きこもり状態の当事者もいるし、買い物くらいなら行くけど社会的な関わりがまったくない状態の当事者もいる、また、就労をしていない状態でも社会的な関わりを持っていれば引きこもりの定義からは外れる、というわけです。

 

さらに、引きこもりになってから精神疾患を発症したケースもあるが、引きこもりの当事者すべてに精神疾患があるわけではありません。

 

まず引きこもりは「状態像」を示すのであり、「病名」ではない、ということだけでも知って欲しい事柄です。

 

引きこもり専門の精神科医斎藤環先生は

「引きこもりの人は、困難な状況にある普通の人たち」

とお話をされていましたが、引きこもってるからといって、考え方が極端に偏っていたり、精神的な病気を持っていたり、怠け者だったりするわけではない、ということですね。

 

また、引きこもり=犯罪予備軍というのも当然大きな誤解です。

 

悲惨な事件の関係者が引きこもり状態にあった場合、世間は「引きこもり」の部分を過大解釈し、すべての引きこもりが犯罪者的な特性を持っていると一般化したがりますが、そもそも引きこもりは非常に犯罪率の低い集団です。

 

これらを知るだけでも、引きこもり支援に大きく貢献している、と言えると思います。

 

②相談に繋がる

第2はこちらです。

引きこもり当事者が相談に繋がることはとても難しいので、まずは家族だけでも引きこもり相談に繋がることが大切です。

 

相談場所は引きこもり地域支援センターが第一の選択肢となります。

引きこもりの専門家が所属し、家族相談も請け負っています。

 

引きこもりは病気ではないので、引きこもり状態を脱するためには周囲が粘り強く関わる必要があります。

 

その時に家族だけで抱え込んでしまうと、当事者を傷つける言葉を言ってしまったり、逆に当事者に家族が傷つけられることを言われて手助けができない関係性になってしまったりしかねません。

 

家族が安定して当事者に関わる

これは非常に大切な手助けなので、専門家に相談をしながら進めていくのが良いと思います。

 

この時に注意したいのは悪徳業者です。

一時期話題になりましたが、引きこもりの当事者を多額の金銭を受け取り、無理やり力づくで部屋から連れ出し、何らかの施設などに連れて行く、という非常に悪質な業者は今も多くいます。

ひどいところはほとんど拉致監禁のようなことをしています。

 

こんなことをしてもまったく効果がないどころか、家族は多額の金銭を払い、当事者は心に深い傷を負い、その後の支援はほとんど不可能になります。

 

もちろん、たまたま偶然そのような暴挙で上手く社会復帰ができたとしても、ごくごく少数であり、それを一般化することは許されません。

 

犯罪を犯したわけでもない彼らの人権を無視するような行いによって、事態が好転するわけはありませんよね。

 

引きこもり地域支援センターは引きこもりの専門家が集まる相談場所なので、悪徳業者が心配な方は、やはり最初の相談場所の第一選択肢になると思います。

 

③友好な関係を作る

家庭の中に引きこもり状態の人がいると、家庭の中が緊張状態になります。

当事者も家族も、常に引きこもりのことを考えてしまい、普通の家族のコミュニケーションはなくなっていきます。

 

「引きこもりをやめて働く」VS「それは嫌だ」だけのコミュニケーションになると、それはもう普通の家族のコミュニケーションじゃないですよね。

 

だから一度「引きこもりを脱して欲しい」という気持ちは隅に置いておいて、家族が普通に会話ができるような関係を取り戻すことからスタートする必要があります。

 

一般的に

・説教

・説得

・脅し

・懇願

などのコミュニケーションを取っていると、引きこもり状態は改善することはなく、むしろどんどん殻に閉じこもってしまいます。

 

・挨拶をする

・一緒に食事を取る

・笑顔で話ができる

・頼り合うことができる

これらのコミュニケーションを、家庭の中で少しずつ増やす、この地道な作業が非常に重要で欠かせません。

 

家庭が安心安全な環境だとそのまま引きこもり続けてしまうのではないか、家庭にストレスがあれば外に出るようになるのではないか、と思われがちですがそれは違います。

 

安心安全な環境にいるからこそ、何かをしたい、頑張りたい、という気力がわきますし、怖いと感じている外に出る勇気が出るものです。

 

これは不登校なども一緒で、無理やり学校に引っ張っていく、ということをするとさらに強く登校を拒否することがあります。

もちろん、その子に合った励ましや、学校に行きやすい工夫などは必要ですが、「VSの関係」に効果はまったくありません。

 

まずは「笑顔であいさつ」「一緒に食事」「PCの操作や家電の組み立てなど、当事者が得意なことを家族がお願いしてやってもらう」から始めてみて下さい。

もちろん無理せず継続できることからで構いません。

 

④当事者が相談に繋がる

そしてやはり当事者が相談・支援に繋がる必要はあります。

家庭の中で居心地よく過ごすことができ、家族以外の支援者、という他人と関わることで大きく状況は動きます。

 

最初は家庭訪問や個別でのカウンセリングとなりますが、徐々に自助グループデイケアなど、集団の場所にも参加できるとさらに回復が進みます。

 

ここのあたりは相談をしている専門家と話し合って進めていくと良いと思います。

 

⑤ケースワーク

そして最後にケースワークです。

主に就労支援になると思いますが、働く働かない、は当事者の意思が大切なので尊重しながら進めていきます。

精神保健福祉士が中心の支援となります。

 

 

以上が一般的な引きこもり支援の流れとなります。

これにケースによって学校や精神科などが介入することもありますし、順番が前後することもあると思います。

 

大切なのは①理解、②支援にまずは家族が繋がることです。

 

 

子どもの引きこもりで親が苦しまないために

子どもが引きこもりになると親の生活までも辛く苦しいものになります。

周囲にはなかなか言いにくい子どもの引きこもりに悩み、夫婦関係に亀裂が入ることもありますし、経済的に困窮するケースもあります。

こんな時に親はどうしていけば良いのでしょうか。

 

まず以下のようには思わないようにしてほしい、という思いはあります。

・自分たちの責任で子どもがこんなことになった

・うちの子どもは何もできない怠け者だ

・自分たちが生きている間は子どもを面倒見る

 

引きこもりは複合的な原因で起こる現象ですし、誰の責任かを追及しても何の意味もありません。

 

時に、引きこもりの子どもは自分の人生が失敗したものだと感じることがあり、それを親の責任だ、と言うこともあります。

 

しかし、心の中では親への怒りだけではなく、申し訳なさやいたわりの気持ちも持っていることが多いのです。

 

だからこそ、親は自分を責めすぎることも、子どもを責めすぎることもする必要はありません。

 

そこは楽になっても良いと思うんです。

 

必要なのは上記に書いたように、本当に意味のある引きこもり支援への手助けをすることであり、そうすることで今よりも良くなる可能性はかなり高いのです。

 

そして親にも親の時間を楽しむことや、困っていることを相談する権利を持っている、ということも伝えたいことです。

 

子どもの引きこもりについて相談すると、子どもが嫌がったり怒ったりすることがありますが、自分の子どもが引きこもりになり、自分もどうして良いのか困っているのですから、親の権利として相談するのは自由なのです。

もちろん、子どもにも権利はあるので子どもが相談を受けるかどうかは子ども自身が決めていくことで、強要できない、というのも同じです。

 

適切な機関に相談し、子どもとのコミュニケーションが良いものになり、家族全体が元気になる、それを夢見ることは変なことではないのです。

 

 

おわりに

引きこもり問題の解決は一筋縄ではいきませんが、引きこもりの知識を普及していくことは非常に重要になります。

まずは正しい知識を、そして多くの専門的な相談場所を、という思いでいっぱいです。

 

一人でも多くの方が引きこもりを知り、偏見がなくなることを願っています。