旅ごころブログ〜公認心理士が書く心理学ブログ〜

公認心理士、臨床心理士をしている筆者が心理学の知識を伝えていくブログです。恋愛心理学、ストレス対処法など日常で使える心理学はもちろん、精神科の疾患についても解説します!

臨床心理士はしんどい職業なのか?臨床心理士の筆者が考える対人援助職がつぶれずに仕事を続けるためのポイント

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心理カウンセラーとして生計を立てていく方法として「臨床心理士」「公認心理師」「心理カウンセラー」などの資格を有して、精神科病院福祉施設、学校で勤務をしたり、開業をする、などの方法があります。

 

心理士として活動する中で「人の悩みばかり聞いていてしんどくないの?」と聞かれることはたくさんあります。

心理士は精神的にしんどい職業なのか・・・

これは答えは人により異なるとは思います。

 

今日は心理士としての仕事に興味がある方へ向けて、私が臨床活動を行ってきて感じた「心理士は精神的にしんどい仕事なのか」「つぶれずに働き続けるためにはどうすれば良いのか」について書いていきます。

心理士の仕事をしたいと思っている方、心理士の仕事に興味がある方はぜひ読んでみて下さい。

※心理士の資格は数多くありますが、ここでは一番メインとなる資格である臨床心理士と表記していきます(ちなみに筆者の有する資格は臨床心理士公認心理師です)

 

 

臨床心理士の仕事内容

まずは臨床心理士の仕事内容を書いていきます。

 

・カウンセリング

臨床心理士と言えばまずはカウンセリングは絶対にあります。

カウンセリングの手法は様々です。

精神科病院、学校、福祉施設、カウンセリングルーム、司法領域、どこの領域でもカウンセリングの技術は必須です。

 

心理検査

心理検査を行う領域はカウンセリングよりは限られます。

と言うよりも、領域により用いる検査は大きく異なります。

精神科病院では比較的多くの検査が用いられ、知能検査、認知症検査、病態水準を見る検査、うつ病の査定検査などがあります。

高齢者領域では認知検査が主ですし、療育センターなどでは知能検査が主となります。

教育領域では心理検査を用いることは少ないですが、心理検査の知識を持っておくことはどこの分野で働くにせよ必須となります。

ちなみに心理検査は数多くあり、すべての検査に精通するのはなかなか難しいことです。

筆者は臨床経験16年目で現在15個程度の心理検査を利用しますが、取ったこともない検査もまだ世の中にはあり、今後も修業が必要だと感じています。

 

・コンサルテーション

コンサルテーションとは、臨床心理士が直接相談者の援助をするのではなく、相談者を支援しようとする援助者に対して、心理学的な見解を伝えつつ、支援者の力になる動きをすることを指します。

多くの現場で用いられていますが、教育現場では必須のスキルです。

 

 

これら3つの業務は、臨床心理師であれば習得しており、さらに技を磨いていけるように訓練を重ねる必要のある必須スキルです。

 

業務内容自体はもちろんまだまだたくさんあります。

現場によっては集団での心理教育や講演を行う必要もあるでしょうし、相談者の生活場面に入っていく現場もあります。

ですが、基本的にはこの3つのスキルを習得し、あとはその現場に応じて臨機応変に心理学的知識を発揮していくこととなります。

 

 

臨床心理士は精神的にしんどい職業なのか?

 臨床心理士業務を行っていると、職場他職種の方たちに「しんどくないの?」「毎日人の話聞いて大丈夫?」と心配していただきます。

 

私からすると「看護師さんのほうが注射もして相談も乗って毎日ばたばた忙しくて大変そう・・・」「受付の方なんて理不尽に患者様に怒鳴られることもあるし、今日もあんなに外来混んでたし・・・」と思うのですが・・・みなさん優しいです(笑)

 

臨床心理士がしんどいのでは?と心配される要因は以下のものがあると思います。

 

①人の悩みを聞く。時には誰にも言えない秘密事を打ち明けられたり、怒りをぶつけられることもあるから

②個室で二人きり、誰にも頼れないから

 

この要因があるから「病まない?」なんて聞かれるのだと思います。

 

これに関してお答えすると

 

①悩みの大きさに病むことはあまりありません。その方の傷つきや壮絶な体験に心を痛めることはたくさんありますが・・・

相談者の怒りについては、もちろん個室で怒鳴られたりすれば怖いですが、あまり心が動揺することはありません。

 

②誰にも頼れないのは確かです。

駆け出しの頃は、一日中カウンセリングを行ない、誰もいない家に帰って寝る、という生活をして、人生を悟ったように勘違いした時期もありましたが(笑)

これもあまり苦だとは思っていません。

 

つまり「そんなしんどくないよ!」ということなのですが、もちろんこれにはワケがあります。

 

まず、私たちは臨床心理学の知識を持っています。

この知識は私たちや患者様を守ってくれるものだと思っています。

患者様の壮絶な話を聞いたり、怒鳴られたりした時に私はこう考えます。

「どうしてだろう」

「何が起こっているのだろう」

そしてその答えを臨床心理学の知識に照らし合わせて解釈していくのです。

知識があれば、「ああ、なるほど、それでこんなに怒っているのか」「うんうん、それならそういう気持ちになるね」と共感したり理解することがやりやすくなります。

理解できれば相手を怖く思ったり、話をするのがしんどく思うことが減るのです。

 

そして第二に、私たちは「しんどい」という気持ちに気づくのがとても上手です。

カウンセリングで非常に大事なのは、「私この人と会っていると嫌な気持ちになる」「あ、今すごく心が動いた」と、自分の感情をきちんと認識することです。

相手の話を聞きながら、相手の感情を考え、自分の感情を認識する、これを同時に、あるいは並行して行うのです。

自分の気持ちに気づければ、それがなぜ起こったのかを考えることができます。

もちろんしんどさを対処するのも早めにできるわけです。

 

そして最後に、臨床心理士同士のコミュニティに属していたり、自分よりもベテランに指導を受けたりすることで、誰かの知恵を借りたり、心の整理を手伝ってもらったりという方法を私たちは持っています。

面接室では患者様と二人きりですが、外に出ると仲間に相談をすることは可能なのです。

 

もう一つよく言われる言葉に

「すごいね。そんなに考えながら人の話を聞けるなんて」

というものがあります。

 

しかし、カウンセリングの時間は50分間です。

カウンセリングは最初に決めた枠を壊すことはしません。

今日はしんどそうだから1時間聞くねー、なんてことはないわけです。

これを冷たい、と言われることもありますが、それだけ集中して相手の話しだけに興味関心を向けて聴き続けるのは50分間が限界なんですね。

時間の枠があるからできることです。

 

 

ここまでのことをまとめると

・知識があれば客観的に人の話を聞くことがしやすくなります

・ベテランの心理士や心理仲間と悩みや課題を共有することで抱え込まないようにしています

・時間の枠が決まっていることで集中をすることができます

 

このように、自分自身を守る体制を作ったり、人間理解を主観ではなく客観的な知識も含めて深めたりすることで、長い年月対人援助を続けられるのだと思います。

逆に言うと、守りのない中での対人援助は、自分や相談者様を傷つけ、継続が難しくなることもあると思います。

 

 

臨床心理士をしていく上での注意ポイント

臨床心理士を職業にしていくのであれば、以下のことは必ず守るべきだと思います。

・専門的なトレーニング(大学院など)を受ける

・現場に出てからも最低でも3年、できれば5年以上はベテラン心理士から定期的な指導を受ける

・自身のセルフケアを日々行う

 

良い援助とは自己犠牲の心では絶対にできません。

優しさで救える人もいますが、臨床心理士が会うのは、その優しさだけではどうにもならなかった方たちです。

慈愛の心は対人援助において大切ですが、それだけでは相手も自分も傷つくと思っています。

 

 

臨床心理士は厳しい職業でもありますが、人間を深い部分で理解できる本当におもしろい仕事です。

若い方たちがどんどん増えていき、活性化されることを願っています。